2015/01/23

俺ももうここまでか

俺ももうここまでか...

止まらぬ汗を感じながら私は思った。
かれこれもう五分以上、このままの体勢である。

私たち夫婦は映画が好きで、育児に仕事に忙しい日々ではあるが時間をつくってDVDを観賞することを楽しみにしている。いつもパソコンで観ているのだが、流石にそれもどうかということで、良いポータブルDVDプレイヤーがないかと家電量販店に物色しに来たのだった。

久しぶりの休日、子連れで買い物、清く正しいサラリーマン家庭の日常風景。うちにはテレビがないので、たくさん並んだ大きな画面に息子は興奮気味だ。可愛いものである。

それが、何故こんなことになってしまったのか。

買い物中に便意をもよおすのはよくあることで、私は妻にその旨を告げ、トイレに向かった。その家電量販店は二階建てで、二階が売り場、一階の奥まった所にトイレがある。私は心なしか早足で階段を降り、大の方のトイレに入って、誰もいないので思い切り事を済ませた。

さて、ここは家電量販店であるから、トイレはもちろんウオッシュレットである。私はウオッシュレットが好きだ。実は、かなり好きだ。本当は、もうこれじゃなきゃ嫌だ、というくらい好きだ。しかしながら自宅はウオッシュレットではないので、外出先にウオッシュレットがあると少し嬉しい。もちろん、このときも、ウオッシュレットの洗浄ボタンを押した。

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きれいさっぱり心地良し、とばかりにストップボタンを押した。がウオッシュレットは止まらない。ん?どうした?ともう一度押す。しかし止まらない。まさか、と冷や汗が出る。まさか、こんなことがあってよいのだろうか。ストップボタンをいくら押してもウオッシュレットが止まらないのである!

そこで冒頭に戻る。
私はもう五分以上、ウオッシュレットの攻撃(すでに攻撃である)にさらされているのであった。

私とてこの五分間を漫然と過ごしていたわけではない。いろいろ、試みた。まず妻に電話した。何をどう説明しようか一瞬迷ったが、そんなことを言っている場合でもなかった。しかし、彼女は電話に出ない。仕方が無いので、立ってみようとしたが、少し尻をあげたくらいでは水は止まる様子もなく、無理をすれば二次災害を起こしかねない。

思いが去来し、思考が巡る。なぜ電話にでないのだ、とか、このまま待てば水切れするのでは、とか、やはり人が来るまで耐えるしかないのか、とか、しかしなぜこんなときに電話にでないのだ、とか、手で水を押さえて立ち上がる作戦はどうか、とか、いやそこまでしなければならないのか、まさにshit!(失礼)、そしてそもそもなぜ電話に出ないのだ。

最初は心地よかったウオッシュレットの温水も、今では殺傷能力すら感じるほどに冷たい水となり、絶え間なく尻を穿ち続けている。

もう無理だ、すでに限界を越えた。どうなってもいいから立ち上がろう、そう立ち上がってやる、いや立ち上がらざるを得ないのだ、すまない涼子、と手を膝にあて頭を垂れたその瞬間、便器のちょうど真下に電源コードがみえたのだった。

ユリイカ!我発見せり!



ある種の爽快感と共に、私は何食わぬ顔で売り場に戻り、店員さんに「ウオッシュレット、壊れてましたよ」とだけ告げ、妻子と合流し、買い物を続けたのであった。のちほど私からの着信の多さに妻が驚いたのも無理はない。そしてその理由に笑いが巻き起こったのも無理はない。

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